重厚な世界観を表すために、説明文がやや多いものの、その魅力的な設定のおかげで気にならなくなっている秀作。
むしろ5000文字という決して多くはない文字数で、数万文字に匹敵する内容を構築する、作者の文章力と構成力に、自分は強く感動した。
また、雨というお題から、これほどのSF世界を作り上げる作者の発想力にも賞賛を送りたい。
他のレビューで主人公の一人称に疑問を呈している方同様、私も当初違和感を覚えたのだが、読み進めていくうちに、主人公の一人称が何故『僕』なのか納得がいった。
主人公にとって大切な存在に対する依存性、それによる精神的成長の停滞を表現しているのではないかと、私は思う。
しかしこの作品、独自の単語や専門用語の多用は読み手を選ぶため、万人受けはしないだろう。逆にSFを好み、また切ない雰囲気を好む読み手には、強くお勧めできる。
しいて残念な点を述べるのならば、この作品が短編であるということだ。
願わくば、この短編だけにとどまらず、今後もこの世界で作品を作り続けていってほしい。
私はそれほど、この世界の『これから』が気になる。
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